家族が亡くなった後に突然訪れる相続。遺された財産の行方をどうするか、誰が何をどれだけ受け取るのかといった手続きは、遺族にとって精神的にも負担の大きなものです。
特に初めて相続に直面する方にとっては、専門用語や複雑な制度に戸惑うことも少なくありません。
- •相続の基本的な仕組みと関係者
- •相続の方法や手続きの流れ
- •よくある疑問とトラブルへの対策
相続に関する全体像を把握し、必要な対応を理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
相続とは
相続とは、亡くなった方(被相続人)の財産や法律上の権利・義務を、そのご家族などの相続人が引き継ぐ法律行為を指します。
民法では、相続は”死亡と同時に開始する”と定められており、遺言書がない場合には、法律で定められた相続人とその割合(法定相続分)にしたがって遺産が分配されます。
引き継がれる財産には、不動産・現金・預貯金・株式といった”プラスの財産”だけでなく、借金・ローン・未払い金などの”マイナスの財産”も含まれるため注意が必要です。
そのため、相続を受ける側は財産の内容をよく確認し、どのように引き継ぐかを判断する必要があります。
相続にはさまざまな制度や手続きが関わるため、基本的な考え方や流れを理解しておくことが重要です。相続の方法や相続人の範囲、財産の種類など、ひとつずつ確認しながら対応することで、不要なトラブルを避けることにもつながります。
相続人とは
相続で重要な役割を担うのが”相続人”です。相続人とは、亡くなった方の財産や義務を受け継ぐ権利を持つ人のことを指します。民法によって誰が相続人となるかが定められており、それを”法定相続人”と呼びますが、場合によっては法定相続人以外にも相続の対象となるケースがあります。
ここでは、相続人の範囲とその扱いについて詳しく見ていきましょう。
●法定相続人
法定相続人とは、法律により定められた相続人のことです。被相続人に配偶者がいる場合、その配偶者は常に法定相続人となります。配偶者に加えて、以下の順位に応じてほかの相続人が決まります。
- 第1順位:子(子が亡くなっている場合は孫などの直系卑属)
- 第2順位:父母や祖父母などの直系尊属
- 第3順位:兄弟姉妹(亡くなっている場合は甥・姪)
例えば、配偶者と子がいる場合はこの2者が相続人となり、子がいなければ配偶者と親が相続人となります。なお、相続人の人数や構成に応じて、相続分(受け取る割合)も異なります。これは遺言がない場合に適用される基準であり、遺言書がある場合はその内容が優先されます。
●法定相続人以外
原則として、相続権を持つのは法定相続人に限られますが、一定の条件を満たせば法定相続人以外にも財産を残せます。その代表例が”遺贈(いぞう)”です。
遺贈とは、被相続人が遺言書によって特定の方に財産を与える意思を示す行為で、親族以外の第三者でも対象に含められます。
また、”内縁の配偶者”や”事実上の養子”など、法律上の地位がない関係者は法定相続人にはなれませんが、遺言で財産を譲ることはできます。
なお、相続権がない人が生活の援助を受けていたような場合には、”特別縁故者”として家庭裁判所に申し立てることで一部財産を取得できる可能性もあります。
●未成年者への相続
未成年者であっても、法定相続人であれば当然に相続権を持ちます。ただし、未成年者は法律行為を単独で行えないため、遺産分割協議などの手続きに際しては法定代理人(通常は親権者)が必要になります。
仮に親がほかの相続人と利害関係を持つ場合には、利益相反を避けるために家庭裁判所に”特別代理人”の選任を申し立てる必要があります。こうした手続きを怠ると、協議が無効となる恐れがあるため、慎重な対応が求められます。
未成年者が相続する場合には、財産の管理や教育資金の使い方などを見据えて、成年後見制度や信託の活用も検討するとよいでしょう。
相続の方法
相続は自動的に発生するものですが、相続人がどのように財産や債務を受け継ぐかは、選択によって異なります。
民法では「単純承認」「限定承認」「相続放棄」という3つの方法が認められており、それぞれに特徴と注意点があります。相続財産の内容や家族の事情に応じて選ぶことが重要です。
●単純承認
単純承認とは、被相続人のすべての財産を無条件で相続する方法です。プラスの財産(預金・不動産など)だけでなく、マイナスの財産(借金や未払い金など)もすべて引き継ぐことになります。
特に手続きをしなくても、相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合や、相続開始から3ヶ月以内に何の意思表示もしなかった場合は、法律上、自動的に単純承認したものとみなされます。これを”法定単純承認”と呼びます。
借金や保証債務の有無を十分に確認せずに単純承認してしまうと、思わぬ債務まで負担する可能性があります。したがって、相続財産の全体像が不明な場合には慎重な判断が必要です。
●限定承認
限定承認とは、相続によって得たプラスの財産の範囲内で、マイナスの財産(債務)も引き継ぐ方法です。例えば、資産が100万円、借金が200万円あった場合でも、支払い義務は受け取った100万円までに限定され、自己の財産で借金を返済する必要はありません。
限定承認は、相続人全員の同意が必要で、家庭裁判所への申述が必要となります。申述は相続開始を知った日から3ヶ月以内に行わなければなりません。
手続きはやや複雑で、遺産の財産目録を作成する必要があるほか、換価・債務弁済などの精算手続きを行う必要もあります。しかし、相続財産に不動産や収益があるが借金の有無が不透明なケースなどでは有効な選択肢となります。
●相続放棄
相続放棄とは、相続人が一切の財産を相続しないと宣言する方法です。プラスの財産だけでなく、マイナスの財産もすべて放棄することになります。
相続放棄を希望する場合は、相続開始を知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。申述が受理されれば、その方は最初から相続人でなかったものとみなされ、債務の請求などを受けることもなくなります。
ただし、放棄した方に代わって次の順位の相続人(例えば兄弟姉妹など)が新たに相続人となるため、家庭内での話し合いと調整も重要です。また、放棄後に財産を処分してしまうと単純承認とみなされるおそれがあるため、慎重な対応が求められます。
相続財産の範囲
相続では、被相続人が残したすべての財産が対象になるわけではありません。引き継がれる財産には、相続の対象となる「プラスの財産」「マイナスの財産」があり、一方で「相続の対象外」となる財産も存在します。
それぞれの違いを理解しておくことで、相続手続きを円滑に進めることにつながるでしょう。
●プラスの財産
プラスの財産とは、相続人が受け取れる経済的価値を持った財産のことです。主な例として、以下のようなものが挙げられます。
- 預貯金(銀行口座やゆうちょ口座の残高)
- 現金
- 土地・建物などの不動産
- 株式・投資信託・債券などの金融資産
- 車・貴金属・骨董品などの動産
- 貸付金や売掛金(回収できる見込みのある債権)
- 借地権や賃借権などの権利
これらの財産は、相続税の課税対象にもなるため、正しい評価と把握が重要です。なかでも不動産や金融資産は相続人間での分割方法や評価額の違いがトラブルの原因となりやすいため、専門家のサポートを得ながら慎重に対応しましょう。
●マイナスの財産
相続財産には、借金や未払い金といったマイナスの財産も含まれます。これらも相続の対象であり、単純承認を選択した場合には相続人が責任をもって返済義務を負うことになります。
主なマイナスの財産には以下のようなものがあります。
- 借金(金融機関からのローンや知人からの借入)
- クレジットカードの未払い残高
- 税金の未納(所得税、住民税など)
- 医療費の未払い
- 家賃や公共料金の滞納分
- 損害賠償請求権に基づく債務
これらの債務は、相続人が全体として負担することになるため、負債の有無や金額をあらかじめ把握しておくことが重要です。財産調査の結果によっては、相続放棄や限定承認を選択する判断材料にもなります。
●相続対象外の財産
すべての財産が相続の対象になるわけではありません。法律上、相続の対象とならない財産には以下のようなものがあります。
- 死亡保険金(受取人が指定されている場合)
- 弔慰金や葬祭費などの給付金
- 遺族年金
- 生命保険の満期金(契約者=被保険者で受取人が相続人以外の場合)
- 雇用保険の遺族給付
- 個人年金の一部(受取人が指定されている場合)
これらは”みなし相続財産”と呼ばれることもあり、相続財産とは法的に区別されます。ただし、課税対象となる場合があるため、税務上の取り扱いには注意が必要です。
相続手続きの流れ
相続の手続きは、被相続人が亡くなった直後から始まり、一定の期限のなかで順を追って進めていく必要があります。各段階で必要な書類や届出があるため、見落としや遅れが生じないよう注意が必要です。
以下で一般的な相続手続きの流れとポイントを解説します。
●死亡届の提出
相続手続きは、被相続人の死亡を公的に届け出ることから始まります。死亡届は、死亡を確認した日から7日以内に市区町村役場に提出しなければなりません。遺族または葬儀社が代行することが多いとされていますが、届出がないと火葬許可証などが発行されず、葬儀や火葬にも支障が出ます。
提出時には、医師による死亡診断書または死体検案書が必要です。この死亡届の控えや火葬許可証は、相続に必要な手続き(銀行口座の解約、保険金の請求など)でも利用されるため、大切に保管しておきましょう。
●遺言書の確認
次に行うのが、遺言書の有無の確認です。遺言書がある場合、その内容が相続手続き全体の流れに大きく影響します。
遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類がありますが、特に自筆証書遺言が見つかった場合は、開封せずに家庭裁判所に”検認申立て”を行う必要があります。
遺言書の内容は、相続人の指定や相続分の割合、遺贈などが記されていることがあり、法定相続とは異なる取り扱いになることもあります。遺言書の発見が遅れると、すでに進んだ手続きに影響を与えることもあるため、早めの確認が重要です。
●相続人の決定
相続手続きを進めるうえで、誰が相続人であるかを確定することが欠かせません。これを”相続人調査”と呼びます。相続人を確認するには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式や、戸籍附票などを取得して調査を行います。
また、被相続人に認知した子や養子がいる場合、思わぬ相続人が見つかるケースもあります。
相続人が多数にわたる場合や連絡が取れない相続人がいる場合は、家庭裁判所への特別代理人の選任申立てや不在者財産管理人の選任手続きが必要になることもあります。
●遺産の評価・調査
相続財産の範囲が把握できたら、次は各財産の評価と詳細な調査を行います。不動産は固定資産税評価額や路線価をもとに評価され、金融資産は相続開始日(被相続人の死亡日)時点の残高が基準になります。
また、借金や保証債務などの負債についても忘れずに確認することが重要です。財産評価は相続税の計算や遺産分割協議の土台となるため、誤りがないよう慎重に進める必要があります。専門家の協力を得ることで、適正な評価と証明資料の整備がスムーズに進むでしょう。
●遺産分割協議
相続人全員が揃ったうえで行うのが”遺産分割協議”です。これは、誰がどの財産をどの割合で相続するかを話し合って決める場です。協議の結果は遺産分割協議書として文書化し、相続人全員の署名・押印が必要です。
遺言書がある場合でも、指定されていない財産については協議の対象です。協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることもできます。遺産分割協議が成立しなければ、不動産の名義変更や銀行口座の解約が進められないため、円滑な合意形成が求められます。
●相続税の申告・納税
相続財産の評価と分割が完了したら、一定額以上の財産を取得した場合に相続税の申告・納税が必要になります。基礎控除額は”3,000万円+600万円×法定相続人の数”とされており、それを超える財産がある場合は課税対象です。
申告と納税は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。期限を過ぎると延滞税や加算税が課されるため注意が必要です。
相続税は現金一括納付が原則ですが、納税が困難な場合には延納や物納などの制度を利用することも可能とされています。
相続に関してよくある質問
ここでは、相続に関してよくある質問をご紹介します。
●相続で起こりやすいトラブルはありますか?
相続は親族間の関係や財産の内容によって、さまざまなトラブルが生じやすい場面です。特によくあるのは、以下のようなケースです。
- 遺産の分け方をめぐる意見の対立
- 特定の相続人だけが財産を多く受け取っていた場合の不公平感
- 遺言書の有効性や内容に対する疑義
- 被相続人の生前贈与をめぐる不満
また、不動産の共有によって売却・利用に関して意見がまとまらず、長期的な紛争に発展することもあります。
これらの問題を防ぐためには、遺言書の作成や専門家の関与、事前の情報共有が重要です。感情的な対立を避けるには、形式的なルールだけでなく、家族間の対話も大切にする姿勢が求められます。
●生前にできる相続対策があれば教えてください
相続を円滑に進めるためには、被相続人が元気なうちからできる準備が重要です。
例えば、誰に何を相続させたいのかを明記した遺言書を残すことで、相続人間での争いを避けることにつながります。遺言書は法律上の要件を満たしていないと無効になるため、可能であれば公正証書遺言の形式で作成しておくと安心でしょう。
また、相続税の負担を軽減する方法として、生前贈与を計画的に行うこともひとつの手段です。年間一定額までの贈与であれば非課税となるため、数年かけて少しずつ財産を移していくことで、将来的な相続税対策にもつながります。
さらに、判断能力の低下に備えて家族信託を活用することで、財産の管理や使い道を信頼できる家族に託すこともできます。こうした対策を講じる際には、税理士や司法書士などの専門家に相談しながら進めることが望ましいでしょう。
相続の基本についてのまとめ
ここまで相続に関する基本的な仕組みや手続きの流れ、よくある疑問への対応についてお伝えしてきました。
記事の要点をまとめると以下のとおりです。
- •相続には法定相続人や遺言書の有無など、関係者やその役割を理解することが重要である
- •相続の方法には単純承認・限定承認・相続放棄の3種類があり、財産内容に応じて選ぶ必要がある
- •相続の流れには死亡届、相続人の確定、遺産の評価、分割協議、相続税の申告など複数の段階があり、それぞれに期限がある
相続は大切な家族の想いを受け継ぐ手続きでもあります。不安や疑問をそのままにせず、必要に応じて専門家の助けを借りながら、冷静かつ丁寧に進めていきましょう。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

